森の図書室
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森と暮らし
宮大工の世界
規矩術(きくじゅつ)という言葉を聞いたことがありますか。
最近ではあまり使われませんが、規矩とは、コンパスと指矩(さしがね=直角の定規)のことを指し、それらの道具を使って木材を加工する計算法のことです。
静岡県にある弥生時代(やよいじだい)の遺跡からコンパスを使って作ったと思われる半円形の板が出土するほか、同じく2世紀頃の中国の遺跡から指矩を持った人物が描かれるなど、規矩術は古代から親しまれてきた高度な計算技術でした。
指矩には寸法の目盛りのほかに、「財、病、離、義、官、劫、害、吉」などの文字の目盛りも表記してあります。
これらの文字は、玄関や柱のような建物にとって重要な部分は「吉」の倍数になるように、官庁であれば「官」の倍数になるように建材を測っていました。逆に「病」「離」などの不吉な言葉は、なるべく避けるようにしていたといいます。これは「天星尺」と呼ばれ、周の時代の中国で始まり日本に伝わってきたものです。
現在はメートル法に移り変わり、コンピュータで図面が引くようになったため、規矩術が重要ではなくなりましたが、数百年前に建てられた社寺建築を修復する宮大工の現場では、指矩は今でもなくてはならない道具です。
昔の大工さんが建てたものを、どんな材料を使ってどのように建てたのか調べながら解体し、修復が必要な部分を修復していくのです。
日本の社寺建築は、「軒反り(のきぞり)」といって軒が繊細な曲線を描いている形が多く見られますが、これには高度な建築技術が必要とされます。
屋根を支える垂木(たるき)は一本ずつ微妙に形を変えて作られ、それぞれの間隔も均等ではありません。数百年前の社寺建築の修復には丁寧かつ高い技術力を持った宮大工が求められます。